名古屋みなとロータリークラブ

卓話Speech

2026年1月16日(金)(第2764回)例会 No.20

認知症の人と地域でともに生きるために

高井 隆一様
認知症の人と家族の会愛知県支部会員
高井 隆一

今日はこのような機会をいただき、誠にありがとうございます。私は認知症の専門医でも研究者でもありません。アルツハイマー型認知症を患った父を7年間介護した、一人の家族としての立場からお話をさせていただきます。

父は、国立長寿医療研究センターでアルツハイマー型認知症と診断されました。認知症のうち約8割がこのアルツハイマー型だと言われています。身体機能は比較的保たれ、父も亡くなる直前まで自力で歩くことができていましたが、記憶障害は深刻で、「今起きた出来事を瞬時に忘れる」状態が続いていました。
アルツハイマー型認知症の特徴として、強い不安があります。よく「恍惚の人」という表現がありますが、実際には決して穏やかではありません。父は「ここは自分の家ではない」「帰らなければならない」と夕方になると繰り返し訴え、どこにいるのか分からない不安の中で日々を過ごしていました。

認知症の根治薬は、世界中の製薬会社が莫大な費用を投じて研究を続けていますが、いまだ実用化には至っていません。発症の10年、20年前から脳内に異常なタンパク質が蓄積するとされ、治療の難しさがそこにあります。

私は東京で生活していましたが、父の介護のため妻が別居して対応していました。ある冬の日、父は突然行方不明になり、大府駅の隣の共和駅構内の線路で列車事故により亡くなりました。大きな衝撃の中、半年後に鉄道会社から約720万円の損害賠償請求を受け、裁判へと発展しました。
この裁判は最高裁まで争われ、「認知症による事故について、家族に一律の監督責任を問うことはできない」との判断が示されました。この判決は社会に大きな影響を与え、認知症をめぐる法制度や支援施策が前進する契機となりました。

ここでお伝えしたいのは、「徘徊」という言葉についてです。認知症の人は、目的もなく歩き回っているわけではありません。多くの場合、過去の記憶に基づいた明確な目的があります。父も「農協へ働きに行く」と言って外出していましたが、それは40代の頃の記憶に基づく行動でした。

現在では行政や報道においても「徘徊」という言葉は使われなくなり、「ひとり歩き」など、より配慮した表現に置き換えられています。言葉を変えることは、認知症の人の尊厳を守る第一歩です。また、地域で認知症の人とともに生きるためには、「認知症であることを隠さない」ことが重要だと感じています。父は名札を身につけていましたが、当時は認知症への理解が十分とは言えず、誰からも声をかけられることなく駅へ向かってしまいました。

現在は認知症サポーターが全国で1,600万人を超えています。今であれば、声をかけてもらえた可能性があったかもしれません。私はその思いから、大府市とともに「認知症ヘルプマーク」の普及にも取り組んでいます。災害時や日常生活の中で、周囲が気づき、配慮できる仕組みが必要です。

最後に、認知症の方への声かけについてお話しします。いきなり「大丈夫ですか」と聞くのは勇気がいります。私が実践しているのは、「今日はいい天気ですね」と、天気の話から入ることです。これなら自然に会話が始まり、もし違ってもその場を離れることができます。
認知症の方は、不安の中で生きています。たった一言の声かけが、その不安を和らげることにつながるかもしれません。今日のお話を通じて、地域で共に生きるための小さな一歩を、皆さまと共有できれば幸いです。ご清聴ありがとうございました。

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