名古屋みなとロータリークラブ

卓話Speech

2025年2月28日(金)(第2732回)例会 No.24

外科領域における食道癌治療バックナンバー >

宮田 一志さん
名古屋大学大学院 医療系研究科 腫瘍外科 病院講師
宮田 一志

食道がんと年間に診断される数は2万4558例(2020年)、死亡数は1万750人(2023年)であり他のがん種と比べるとそれぞれおよそ10番目のがんであります。特徴としましては、明らかな性差があり、男性が4-5倍ほど多い事が挙げられます。年齢分布を見ますと50代を過ぎたあたりから増え始め、年齢と共に増加し、70代でピークに至ります。実際、病院で治療を行っていても70代の患者さんが非常に多いと感じます。また、飲酒と喫煙との関係が昔から指摘されており、当院での患者さんも殆どが飲酒・喫煙共に嗜まれてきた方が殆どです。

このような特徴のある食道がんですが、胃がんや肺がんに比べると一般の方が情報を得る機会は少ないのではと考えます。今回、講演の機会を頂きましたので普段は情報を得にくい食道癌の治療にてついて、特に私は外科医でありますので外科医の視点からの食道癌治療につきましてお話したいと思います。

まず食道という臓器の解剖学的特徴です。食道は頸部、胸部、腹部に渡る細く長い臓器で、周りに気管、心臓、大血管と非常に重要な臓器に囲まれています。その為、手術難易度は高く、また頸部、胸部、腹部の3領域の手術を必要とする為、長い時間を要する手術となります。食道は薄い臓器である為、深達度が深くなる傾向があり、またリンパ節転移しやすい事が分かっています。その為、胃癌や大腸癌に比べて非常に浅い癌でなければ、内視鏡的に切除することは出来ず、多くは外科治療の対象となります。

食道癌の標準的治療は、cStage I(食道癌取り扱い規約12版)のものであれば手術単独になりますが、cStage II以上のものは術前抗がん剤治療の後に手術を行う事が標準的治療になります。但し、cStage IVBは手術適応が無く、抗がん剤単独または抗がん剤と放射線治療を行う事が標準的治療となります。その後はケースバイケースでSalvage手術という特殊な手術を行う事もあります。cStage II以上に対する術前抗がん剤は2022年に発表されたJCOG1109の結果により、現在は5-FU,CDDP,Docetaxelの3種類の抗がん剤を3回行う事が標準的治療となります。

食道の手術はその大半をしめる胸部の手術がメインとなりますが、最終的に3つの領域を手術する必要がある為、およそ8-10時間程度かかります。かつて胸部の手術は開胸手術しかありませんでしたが、医学の発達とともに低侵襲な胸腔鏡に移行してきました。さらに2018年の保険収載からはロボットを用いたロボット支援下食道切除術が増えてきています。胸腔鏡に移行した時点で胸の傷は、大切開からミリ単位の穴に替わりましたので侵襲度は大きく下がりました。更にロボット手術となり、より精密な手術が行えるようになりました。但し、これには術者並びに施設認定基準があり、残念ながらどの病院でも受けられるわけではありません。かつては術者資格としても消化器外科専門医、内視鏡技術認定医、食道専門医、ロボット手術のcertificateが必要でしたが現在では少し緩和されました。今後、病院を選ぶ際の選択肢が多少増えていくかと思われます。

以上、日ごろは例え関心があっても情報を得にくいであろう食道癌について外科医の立場から講演させて頂きました。少しでも皆さんのお役に立てたならば幸いです。

名古屋みなとロータリークラブ

国際ロータリー第2760地区 名古屋みなとロータリークラブ

■事務局
〒460-0008 名古屋市中区栄2丁目13番1号
名古屋パークプレイス3F
株式会社マイ.ビジネスサービス.内
tel:052-221-7020 fax:052-221-7023
■例会場
名古屋マリオットアソシアホテル(17階)
金曜日 12:30~13:30