名古屋みなとロータリークラブ

卓話Speech

2025年11月14日(金)(第2758回)例会 No.14

2024能登半島地震と能登豪雨、メディアの果たした役割

能田 剛志様
金沢みなとRC副会長・幹事 北陸朝日放送株式会社代表取締役社長
能田 剛志

石川県のテレビ朝日系列局、北陸朝日放送の能田と申します。名古屋ではメーテレと同じ系列になります。先ほどご覧いただいた映像にもありましたが、町野地区の方々への布団乾燥機の支援について、改めて御礼申し上げます。特に被害の大きかったもとやスーパーをはじめ町野地区へご支援いただき、心より感謝いたします。

松井会長がお話しされた通り、町野の皆さんは「これからどんどん前に進んでいく」という強い思いを持っています。復旧はまだ十分に進んでおらず、復興には至っていませんが、能登豪雨で一度心が折れた後も、再び立ち上がろうと懸命に努力されています。

本日お話しするのは「メディアの果たした役割」についてです。1月1日16時に発災をした時は正月で飲んでいたのですが、すぐに会社へ出社しました。一方、報道部のスタッフは飲まずに待機しており、すぐに3班、4班体制で取材に出ました。しかし、当初は状況が全く分からず、現場にたどり着くことも困難でした。こうした災害時には、系列局のネットワークが大きな力を発揮します。石川の場合、新潟、長野、名古屋、大阪、そしてテレビ朝日、各局が一斉に応援に入りました。北海道テレビからも「今からフェリーで向かいます」という連絡が、発災からわずか1時間ほどで届きました。多い時には、各系列合わせて400~500人規模のスタッフが取材に入ったと思われます。被災地にとっては迷惑な話なのかもしれませんが、災害報道はテレビ局にとって一丁目一番地なのです。裏付けを取った正確な映像と情報を届けるため、全力で取り組んできました。現在「オールドメディア」と呼ばれることもありますが、信頼できる情報を、速やかに、的確に、県民の皆様へお届けすること、それが私たちの使命です。

私は34年前、当社の開局時に一般公募のメンバーとして入社しました。当時31歳でしたが、その後2019年6月に社長を拝命し、現在65歳になります。

先ほど取材の話をしましたが、震災が発生した際に放送インフラがどうなるのか、そして情報インフラや携帯を含む生活インフラがどうなるのかという点についてお話ししたいと思います。テレビ局にとって中継局は非常に重要です。私たちの本局から電波を発信し、能登島を経由して能登北部まで放送を届けています。今回の震災では、一部の中継局が損壊したほか停電が発生しました。停電時には自家発電が稼働しますが、燃料は約3日分しかなく、次第に枯渇してしまいます。燃料が尽きると電波を届けられなくなり、いわゆる「停波」が起こります。小規模な中継局(100~500世帯程度)であれば、やむを得ない場合もありますが、大規模な局を止めるわけにはいきません。そのため、私たち民放4社の社長はホットラインで連絡を取り合い、1月1日深夜から2日にかけて、どのように対応するかを協議し続けました。

自衛隊ヘリでの燃料運搬&給油作業
停波を避けるため、私たちは自衛隊に協力を依頼し、ヘリコプターで燃料を運んでもらいました。技術スタッフは、ホバリングするヘリから自衛隊員に抱えられて降り、燃料を補給しました。中継局は人里離れた山の上にあるため、震災後は道も壊れており、燃料を抱えて進むのは非常に困難でした。それでも、3日に1回ほどヘリで燃料を運び、停波を阻止しました。技術スタッフは「絶対に停波させない」という強い使命感で対応しましたが、雪の中で道が分からず雪穴に落ちる人、燃料補給中にバランスを崩して燃料を頭からかぶる人など、危険な状況が続出しました。命に関わる事態となり、自衛隊へのヘリ要請をやめるべきかという議論も出た時ようやく復電が実現しました。ただ、この復電も、日頃から電力会社と緊密なコミュニケーションを取っていれば、もっと早く優先的に対応してもらえたかもしれません。残念ながらその準備がなく、最終的には民放全局の社長名で北陸電力に復電をお願いする形となりました。

震災時、復電は人命を守る病院などが最優先になります。この経験を全国の民放連で共有し、災害時に備えて電力会社と日頃から連携する重要性を訴えました。1月4日から30日まで燃料タンクを抱えて山道を登り、20回以上補給を行いながら放送を維持しました。しかし、このことは行政や視聴者にはほとんど知られておらず、放送インフラの脆弱性を痛感しました。今後は中継局や通信を含め、災害対応の強靭化を進める必要があることを学びました。

震災対応がようやく落ち着き、復旧が少しずつ進み始めたものの、輪島の朝市の惨状は皆さんご存じの通り、ビルが横倒しになり、震災後の火災で朝市が全焼しました。昨年9月時点でも状況はほとんど変わっておらず、仮設住宅がようやく整備され、なんとか生活できる状態になった中で9月21日の豪雨でした。心が折れたという話が、あちこちで聞かれました。この時もヘリで燃料を運び徒歩で中継局まで行くなどして停波を防ぎ、ようやく復電を実現しました。しかし、震災と能登豪雨の影響で被害は広範囲に及び、住民は避難や移住を余儀なくされました。私たちは地元報道機関として、何をすべきかを社内で検討し続け、発災直後にはテレビ朝日と連携して災害報道に切り替えました。現地取材は困難でしたが、輪島支局のカメラマンが火災の映像を撮影し、名古屋や新潟からのヘリ映像とともに報道を続けました。 系列局から入る多くの応援スタッフのため、私たちは宿や食事、トイレの確保に奔走しました。被害の少なかった民宿を借り上げ、キャンピングカーを4台現地近くに配置して食料や水、簡易トイレを送り込みました。しかし、金沢から現地まで片道12時間かかり、営業スタッフが朝出発して夜に到着、翌朝帰るという過酷な状況が続きました。また、女性記者も多く応援に来ていましたが、トイレ問題で長期滞在が難しい場面もありました。それでも私たちは、震災から1か月後、3か月後と特番を制作し、能登の現状を伝え続けています。先ほど申し上げた輪島のカメラマンは、地震で傷ついたふるさと被災者として、カメラマンとして生きています。

震災報道では、撮影を拒む人もいれば、自分が語らなければ亡くなった人の思いが伝わらないとカメラに立ち続ける人もいます。
地元報道機関としての取り組みと課題④
私たちはその両方に向き合い、震災の実態と復興の歩みを長期にわたり伝え続ける責任があります。被災地にとって「忘れられること」が最もつらいことです。だからこそ、皆さんの支援とともに、メディアとして寄り添い続けたいと思います。私たちは「石川ふるさと支援大賞」を24年間続け、今回も19市町村の「ありがとう」をCMで発信しています。震災を決して忘れず、これからも報道を通じて支援を続けていきます。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

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